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米DHSの評価が日本のドローン調達に突きつけた課題

10月12日
読了時間: 8分

Blue UASでも、高層ビルの間では使えないことがある


消防や警察のドローン調達では、情報漏洩への対策や部品の出所を確認することが欠かせません。しかし、その確認を通過した機体が、出動先でも期待どおりに働くとは限りません。


米国土安全保障省(DHS)の評価報告書に、その隔たりが具体的に記されています。Blue UASの枠組みで調達・運用に関する適合性が確認された機体であっても、マンハッタンの高層ビル群では、衛星測位や位置保持に問題が生じ、十分な評価を完了できなかったものがありました。評価を続けられた機体でも、通信の切断や映像の遅延が報告されています。


日本にとっても、見過ごせない結果です。国産であることやセキュリティ要件への適合は大切です。それと同時に、建物の間で止まれるか、映像を届けられるか、必要な時間内に飛ばせるかを確かめる必要があります。


本稿は、Drone Authorityの紹介記事を端緒に、DHSの原報告書『Blue UAS for First Responders Comparative Assessment Report』(SAVER-T-R-39、2026年9月公開)を確認してまとめています。




マンハッタンで何が起きたのか


評価を実施したのは、DHSの国立都市安全技術研究所(NUSTL)です。緊急対応機関の機材選定を支援するSAVERプログラムの一環として、2024年6月にテキサスの郊外環境、同年11月にマイアミの都市環境、2025年7月にニューヨークの高密度な都市環境で試験しました。


一連の評価には、消防・警察などで運用経験を持つ26人の操縦者が参加しています。対象は5メーカーの6機種で、すべての機種を全会場で評価したわけではありません。注目したいのは、マンハッタンのHudson Yardsで起きた次の問題です。


Ascent AeroSystems Spirit:十分なGNSS受信が得られず、安定して位置を保持できなかったため、評価を完了できませんでした。


Freefly Systems Astro:位置保持モードに入らず、機体が継続的に流されました。安全担当の操縦者が操作を引き継ぎ、高度を上げて位置保持を試みても解消しませんでした。


Teal 2:十分なGPSロックが得られず、安全に離陸させることができませんでした。


Spiritは報告書本文18ページ、Astroは21ページ、Teal 2は34ページに、それぞれの事情が記載されています。「3機とも墜落した」「すべて通信途絶で飛べなかった」という話ではありません。位置を保てない機体と、安全に離陸できない機体があり、評価を進められなかったという結果です。[DHS報告書:4.1.3・4.2.3・4.6.3節]


これらは試験時の構成と条件で得られた結果です。その後のソフトウェア更新や現行モデルまで、同じ問題が続いていると断定することはできません。ただ、調達前に確認すべき項目を考えるうえでは、十分に重い事例です。



「位置を保つ」ことに追われると、救助のための観察ができない


高層ビルの間では、衛星からの電波が遮られたり、壁面で反射したりします。受信機の性能だけでなく、周囲の環境が測位の品質を左右します。GPS.govも、建物による信号の遮断と反射、いわゆるマルチパスを、測位精度を悪化させる要因として説明しています。[GPS.gov:GPS Accuracy]


ドローンにとって、これは地図上の位置が少しずれるだけの問題ではありません。自分の位置を安定して推定できなければ、その場に止まり続けることも難しくなります。


DHSの報告書が指摘しているのは、そこで操縦者の仕事が変わってしまうことです。機体が流されないように操縦入力を続ける必要があると、カメラで現場を観察し、地上の隊員に情報を伝えることへ集中できません。


消防や救助の現場で欲しいのは、空中に浮いている機体ではありません。人の所在、火の回り方、進入できる経路を確認し、判断につながる映像を届ける手段です。位置保持の不安定さは、その仕事を直接妨げます。[DHS報告書:要旨・本文35ページ]


日本でも、駅前の高層建物、集合住宅の間、橋の下などを想定すれば、同じ種類の課題を評価対象に入れる理由があります。開けた飛行場での安定性だけでは、出動先での使いやすさまでは分かりません。



通信と立ち上げ時間も現場で使えるかを左右する


問題は衛星測位だけではありません。報告書は、一部のケースで離陸地点からわずか50フィート、約15メートルの距離でも通信切断が発生したとしています。ANAFI USA GOVの個別評価にも、近距離での接続問題が記されています。


カタログに長い通信距離が書かれていても、建物が立ち並ぶ場所で同じ性能が出るとは限りません。映像が止まる、操作への反応が遅れる、接続し直す必要がある。そうした問題が重なると、現場の状況を確認するために投入したドローンが、かえって隊員の注意を奪います。


離陸までの時間についても、評価者の多くが許容できないと判断しました。送信機との接続、再起動、GPSロック、Remote ID、離陸前の校正などが遅延の原因になっています。[DHS報告書:本文12・23・35ページ]


飛行時間が長いことと、必要なときにすぐ使えることは、別の性能です。日本の自治体や消防が導入を評価するなら、「何分飛べたか」に加えて、ケースを開いてから指揮所へ最初の有用な映像を届けるまでに何分かかったかを測るべきでしょう。電池交換後に再び使えるまでの時間も含めて、出動の流れ全体で見る必要があります。



Blue UASの役割を過大にも過小にも見ない


原報告書は、Blue UASの指定が、公共安全に必要な機能を果たせるかどうかまで保証するものではないと明記しています。また、今回のSAVER評価は操縦者の使用経験を調べたもので、国家安全保障上のリスクを判定する試験ではありません。[DHS報告書:本文4ページ]


供給網やサイバーセキュリティの確認は必要です。しかし、確認済みという事実から、あらゆる現場での性能を推定することはできません。

ドローン調達で確認する供給網・サイバー対策・制度適合と、現場の位置保持・通信・出動時間を比較した概念図。DIIJ編集部、AI生成。

一方で、「Blue UASは性能を一切見ていない」と言い切るのも正確ではありません。DIUは2025年の更新に向けた評価で、通信の信頼性、飛行安定性、GPSが使えない状況への耐性などを評価項目に挙げています。それでも、特定の用途や場所での適性は、利用者側で確かめる必要があります。[DIU:2025年2月14日発表]


今回の評価でも、機体による差がありました。Skydio X10Dは高い評価を受け、自律航法による安定性などが評価されています。ただし、同機にも高層ビル間での接続喪失や映像の遅延が報告されています。「自律飛行が強い機体なら、通信も問題ない」とは言えません。[DHS報告書:本文29~31・36ページ]


なお、試験会場ごとに評価項目の扱いが異なるため、点数だけを並べて厳密な性能順位をつけることにも注意が必要です。また、制限対象国の機体もニューヨークで併せて試験されていますが、その結果は公開版に含まれていません。この公開報告書だけから、DJIとの優劣を数字で断定することはできません。



日本のドローン調達では、「国産」に加えて現場での合格条件を


日本への示唆は、国産機を選ぶべきか、海外機を選ぶべきかという二択には収まりません。国産化を進めるのであれば、製造元や部品の出所に加えて、どの環境で、どこまで仕事を完了できる機体にするのかを明確にする必要があります。


都市での消防・救助を想定するなら、建物の近くでも観察に集中できる程度の位置保持ができるか。GNSSの品質が低下したとき、機体と操縦者がその状態を把握できるか。通信が劣化・切断したときの挙動が現場の安全計画に合っているか。これらを調達時の実機評価に入れることが考えられます。


初回離陸と電池交換後の再出動を必要な時間内に行えること、映像を撮るだけでなく指揮所へ届けるまでの手順が成立することも、確認したい項目です。これは本稿からの提案であり、数値の合格基準は用途と現場の条件に合わせて設定する必要があります。


非GNSS環境への対応では、カメラと慣性センサーを組み合わせて自分の動きを推定するVIOなどが候補になります。PX4の公式文書も、GPSが使えない、あるいは信頼できない場所での航法用途を説明しています。[PX4:Visual Inertial Odometry]


ただし、「VIO搭載」という仕様だけで合格にするべきではありません。推定結果を飛行制御にどう使い、推定の信頼性が落ちたときにどう振る舞うのかまで、実機で確認する必要があります。今回の報告が示した課題は、センサーの有無よりも、操縦者が安心して仕事に集中できるかにあります。



災害対応で必要なのは、使える条件が分かっている機体


この報告書の価値は、うまく飛んだ映像だけでなく、評価を進められなかった事情を残していることです。


日本でも、防災訓練や実証の成果を公表するときに、成功した飛行に加えて、離陸できなかった条件、通信が悪化した場所、再出動にかかった時間を蓄積できれば、次の調達や運用計画に役立ちます。


もちろん、安全上の制約や通信設定など、公開範囲に配慮すべき情報はあります。それでも、現場の失敗を共有せずに、購入台数や実証回数だけで導入の進展を測るのは難しいでしょう。


Blue UASの枠組みで確認された機体でも、マンハッタンでは仕事を完了できない場合がありました。日本のドローン調達でも、適合性を確認した先に、現場での評価を置く必要があります。


何を買えるか。そして、買った機体で何を完了できるか。災害対応のドローンに求められるのは、その両方への答えです。



出典のページ番号はPDF内に印刷された本文ページです。主資料:DHS・NUSTL『Blue UAS for First Responders Comparative Assessment Report』、SAVER-T-R-39、2026年9月。DHSの関連資料一覧も参照できます。画像はDIIJ編集部によるAI生成の概念イメージで、実際の試験風景ではありません。

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