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台湾ドローン産業、国産化のその先へ―半導体と自律飛行で狙う世界市場

10月8日
読了時間: 7分

台湾のドローン完成機の輸出額は、2026年上半期に2億1,200万米ドルとなった。台湾経済部が公表した前年通年の9,300万米ドルを、半年で上回る。まだ小さな市場ではあるが、国内で開発しているというだけの段階は過ぎつつある。


同じ台湾では、GPSを使わず約2kmを自律飛行したという発表もあった。輸出の数字と飛行実験。一見別々の話だが、その間には、半導体、飛行制御、海外技術の導入、政府調達がつながっている。


台湾が売ろうとしているのは、完成した機体だけではない。海外メーカーの機体に組み込まれる部品や、自律飛行を支える技術にも商機を求めている。この広がりを見ておきたい。



政府が最初の顧客になる


台湾の育成策は、研究費を出して終わる仕組みではない。経済部は13の中央省庁による調達で国内需要をつくり、企業に製品の実績を積ませ、海外販売につなげる方針を示している。試験・生産の場所や、情報セキュリティの評価、調達制度も合わせて整備する。


試作機が飛んでも、翌年に何機売れるか分からなければ、企業は生産設備や保守要員を抱えにくい。最初にまとまった顧客がいることは、部品メーカーを巻き込む際にも効く。政府調達を足場に量産へ進み、海外で販売を増やす。政策の筋道は読み取りやすい。


もちろん、調達計画は売上ではない。予算が付き、契約が決まり、納入され、追加注文が入るまでには時間がかかる。台湾経済部自身も、予算の継続性が企業の投資や量産計画を左右すると訴えている。輸出拡大の一方で、政府需要への依存は見ておく必要がある。



米国製でも、電池が止まれば困る


台湾の政策でよく使われる「非紅供應鏈」は、中国に依存しない供給網を指す。これは単なる産地表示の話ではない。


2024年10月、米Skydioは中国による制裁で電池供給が減り、顧客への提供に影響すると公表した。米国内でドローンを製造していても、部品を供給する企業との関係までは国内で完結していなかった。


最終組み立てを自国に移せば供給の不安が消える、というものではない。電池、通信機器、半導体、ソフトウェア。どこかが止まったとき、代替できる設計と調達先があるかどうかが問われる。


台湾企業にとって、ここには完成機とは別の市場がある。海外メーカーが中国以外の部品供給元を探すなら、その注文を取れる。経済部は2026年2月、台湾の産業がSkydioやフランスのParrotの非中国系供給網に入ったと説明した。台湾ブランドのドローンを一機売るほかに、他社のドローンが売れるたびに部品を供給する道もある。


ただし、非中国製という条件と、製品の性能や安全性は別々に確かめる必要がある。調達条件に合うことは商談の入口になっても、顧客が使い続ける理由までは保証しない。



半導体企業をドローン開発に引き込む


台湾の得意分野を生かしやすいのが、画像処理と飛行制御だ。経済部は2025年9月、AI画像処理や低コストの飛行制御基板を中心に、7件、総額約3億2,600万台湾ドルの開発補助を承認した。


海華科技と台湾希望は、MediaTekのGenio 720を使った視覚航法・追跡関連の画像モジュールを計画。中光電智能機器人と芯鼎科技は、画像処理とAI演算を統合し、全方向の障害物回避や複数センサーの情報統合を目指している。


いずれも開発計画であり、掲げた性能が量産機で実現したと受け取るべきではない。それでも、資金がどこへ向かっているかは分かる。映像をきれいに撮るだけでなく、その映像を機体内で処理し、飛び方を変えるための開発である。


半導体が高性能でも、それだけで自律飛行はできない。限られた電力で処理を続け、センサーの情報をそろえ、飛行制御につなぐ必要がある。半導体企業と機体メーカーが組むのは、その作業を詰めるためだ。共通のモジュールとして供給できれば、一社の機体販売に依存しない事業にもなる。



GPSなしで飛んだ漢翔の実証


その具体例が、漢翔航空工業(AIDC)とVantorによる視覚航法システム「AIxVNAV」だ。漢翔の発表では、2026年8月11日の試験で、GPSのない条件下で約2kmの自律飛行を実施した。機上カメラで地上を撮影し、3Dデータベースと照合して位置を判断する。


GPSは衛星測位システムの一つで、日本のみちびきや欧州のGalileoなどを含めた総称がGNSSである。今回の公表資料は「GPSなし」としており、あらゆる衛星測位や妨害条件での性能を保証する発表ではない。


カメラで位置を知る方法も、一種類ではない。VIOは、映像と慣性センサーを使って移動量や姿勢を推定する。人が歩いた距離と曲がった方向を覚え、出発点からどこまで来たかを考えるのに近い。小さな誤差が積み重なると、推定位置はずれていく。


地図との照合は、目の前の交差点を地図上で見つける作業に近い。「どれだけ動いたか」に加え、「地図上のどこか」を確かめられる。VIOと場所認識を組み合わせる研究は以前からある。


中光電智能機器人(CIRC)も、GPSが不安定な場合や妨害された場合に、VIO/SLAMを位置推定や経路計画に使うと説明している。一方、漢翔の説明の中心は3Dデータベースとの画像照合であり、内部でVIOをどう使っているかは公開資料から断定できない。


台湾がVIOを新しく発明した、というニュースではない。既存技術も取り込みながら、自国の機体で使える航法システムに仕上げているところに価値がある。



海外技術を使い、国内で仕事を増やす


漢翔は2025年12月、VantorとRaptor Guideのソフトウェア統合・ライセンス販売に関する契約を締結した。機体ごとの適合、台湾内での試験、検証、技術支援を進めるとしている。


海外技術を買えば、そのまま飛ぶわけではない。搭載する機体に合わせて調整し、飛行制御とつなぎ、条件を変えて試す。顧客から不具合が届けば調べ、更新する。こうした仕事を国内で担えれば、導入した技術を国内の事業へつなげられる。


企業を結ぶ枠組みも広がった。2024年9月発足の無人機海外商機聯盟(TEDIBOA)は、漢翔の2026年1月発表では創設時の50社から260社超となった。参加社数がそのまま競争力になるわけではないが、機体、部品、ソフトウェアの企業が相手を探す受け皿にはなる。


自主開発する部分と、海外から導入する部分を選び、国内で統合する。このやり方なら、すべてを一社で開発するよりも製品化を早められる可能性がある。反面、契約で認められる改修範囲や、将来の更新支援も事業を左右する。



作った後の評価と販売まで整える


工業技術研究院(ITRI)は、AUVSIから米国外で初めてGreen UASの評価機関として認められたと公表している。ドローンのサイバーセキュリティや供給網の健全性を評価する枠組みだ。


海外市場へ出る企業にとって、評価のために製品や資料を送り、指摘を受けて修正する作業は負担になる。国内に評価の窓口があれば、開発との往復を進めやすい。台湾は製品を作る場所に加え、海外の顧客へ説明するための評価拠点も整えようとしている。


これは台湾製品すべての認証取得を意味せず、米国での販売や調達を一律に認めるものでもない。それでも、企業が個別に海外へ出て評価手順を探るより、産業として経験を蓄積しやすくなる。



日本の「国産機」は何を任せられるのか


台湾の発表を追うと、機体の製造国だけを競っていては足りないことが分かる。衛星測位を失ったときの位置推定、機上の画像処理、代替部品への対応、海外で通用する評価。顧客が任せられる仕事を増やすには、このあたりまで開発が及ぶ。


ただ、約2kmの実証を終えたシステムが、直ちにどこでも使えるわけではない。必要な地図、位置誤差、環境が変わったときの性能、位置を見失った際の動作は、導入前に確かめなければならない。画像処理モジュールも、演算性能の数字だけでなく、電力、価格、供給期間が採用を決める。


日本の国産ドローンにも同じ問いが向けられる。国内で作れても、顧客が必要とする環境で働けなければ選ばれない。逆に用途を絞り、必要な性能と保守をきちんと提供できるなら、すべての技術で世界最高を目指す必要もない。


台湾が進めているのは、完成機を売る、部品を供給する、海外技術を国内機に組み込む、評価を引き受けるという複数の事業だ。どの仕事で利益を残せるかは、これから実績で見えてくる。


日本が参考にすべきなのも、国産機の機種数より、この仕事の広げ方だろう。国産化を始点にして、誰に何を売り、使い続けてもらうのか。台湾の動きは、その先の話まで進んでいる。



※2026年10月8日時点の公表資料に基づく。アイキャッチはAI生成イメージで、特定の市販機体や実証風景を示すものではない。

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