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機体を失っても、情報は渡さない―秘密分散とドローンの情報漏洩対策

10月9日
読了時間: 6分

工場の点検に使ったドローンが戻ってこない。機体の捜索と事故対応を進めながら、もう一つ確かめなければならないことがある。機体に残った映像を、拾った人が見られるのか。


生産設備の配置、施設への進入経路、警備の巡回パターン。業務のために集めた情報は、第三者に渡れば施設の内情を知らせる資料にもなる。ドローンの安全性を考えるなら、墜落を防ぐだけでは足りない。回収できなかった後のデータまで、設計の対象にする必要がある。


そこで注目したいのが秘密分散だ。アイ・ロボティクスがネクストウェア、ZenmuTechと進めてきた「インテグリティ・ドローン」は、この考え方を機体に持ち込む取り組みである。



データを分ける。


秘密分散は、元のデータを変換して複数の分散片にし、復元に必要な片がそろわなければ内容を読み取れないようにする技術だ。動画ファイルを半分ずつに切って別の場所に置くだけなら、それぞれから映像の一部が見えるかもしれない。秘密分散が目指すのは、そのような切り分けではない。


方式によって復元の条件は異なる。例えば「3個のうち2個が集まれば復元できる」というしきい値方式もある。一方、インテグリティ・ドローンが採用するZENMU-AONTは、必要な分散片をすべてそろえて復元する方式だ。ZenmuTechは、内部にAES-256を用いることも公開している。「暗号とは無関係な魔法」ではなく、データを変換し、復元に必要な情報を分離して管理する仕組みと捉えるとわかりやすい。[技術の説明:ZenmuTech]


ドローンに応用するなら、機体側に残す分散片と、地上側で管理する分散片を分ける。機体だけを回収されても、必要な片がそろわない構成をつくる。重要なのは分割した個数ではなく、一度の盗難や一つのアカウントの侵害で復元に必要な情報が集まらないことだ。



インテグリティ・ドローンが取り組んできたこと


3社は2022年6月、秘密分散をドローンや移動型ロボットに組み込む技術として、インテグリティ・ドローンを発表した。アイ・ロボティクスは機体への組み込み実証を担い、ZenmuTechが秘密分散の技術を提供する。特定の完成機体の名前としてよりも、機体上のデータを保護する技術・仕組みとして読むべき取り組みだ。[2022年6月13日の共同発表]


2025年4月には、その拡張として保存・通信データのリアルタイム保護に関する実証成果が発表された。発表資料は、ドローンを模したシステムでの映像の保存・通信や、複数経路・ストレージへの分散を説明している。既存機体への後付けも狙いとして掲げられた。[2025年4月21日の実証発表]

インテグリティ・ドローンの秘密分散の概念図。撮影データを機体側と地上側の分散片に分け、必要な片をそろえて復元する。AI生成画像。
インテグリティ・ドローンの考え方を簡略化した概念図(AI生成)。実際の製品構成を示すものではありません。

この方向は実務的だ。点検事業者にとって、保有する機体をすべて買い替えるのは容易ではない。撮影や解析の性能を生かしながら、扱える情報の機密性を高められれば、重要施設での利用範囲を広げる余地がある。


ただし、公表された実証成果と、あらゆる市販機で保証された性能は同じではない。対応機種、保護されるデータの範囲、遅延、通信断時の動作、提供条件は個別に確認する必要がある。本稿で参照した発表だけから、全機種での商用提供や第三者認証の取得までを判断することはできない。



「国産だから安全」から、何を持ち出されると読めるかへ


調達先や製造国は、供給網や保守体制を評価するうえで意味を持つ。それでも、国産の機体をなくせば、記録媒体を回収される可能性はある。国内のクラウドでも、認証情報が盗まれたり公開設定を誤ったりすれば、情報は流出する。


導入時に聞きたいのは、「映像はSDカードに平文で残るか」「操縦端末にコピーができるか」「誰が復元できるか」という具体的な質問だ。秘密分散を追加した場合も、保護される経路を迂回してメーカーのアプリや別の録画機能が原本を保存していれば、そのコピーが弱点になる。


後付け型の価値を評価するには、撮影から保存、送信、解析までのデータの流れを一周たどる必要がある。保護モジュールを載せたという事実だけでは、その一周を守ったことにはならない。



秘密分散にも、守れる範囲がある


分散した情報を、同じ管理者権限でまとめて取り出せるなら、攻撃者もその権限を狙う。機体と地上側の両方が侵害される場合や、正規の利用者が復元後の映像を持ち出す場合も、別の対策が必要になる。


また、映像を表示したりAIで解析したりする段階では、通常は使える形のデータに戻す。その処理をする端末やサーバーが侵害されれば、秘密分散だけでは守り切れない。認証、権限管理、通信の保護、更新プログラムの検証、操作記録を組み合わせて考えるべきだ。


秘密にすることと、改ざんを検知することも別の課題である。「インテグリティ」という名称や分散保存の採用だけを根拠に、あらゆる不正指令や乗っ取りを防げると解釈してはいけない。どの攻撃を、どの条件で防いだのかを確認したい。



通信が切れても、安全に帰れる設計が要る


ドローンでは、データの保護と飛行の継続が衝突することもある。通信が途切れたときに機密映像を読み出せなくする設計は有用だが、帰還や安全な着陸に必要な機能まで失わせてはならない。


実装時には、保護対象の業務データと、安全確保に必要な処理を区別する必要がある。一時的な電波遮蔽と機体紛失をどう扱うか、いつ復元を許すか、必要な分散片を失ったときの復旧をどうするか。漏洩を防ぐ設計には、正当な利用者がデータを取り戻せなくなるリスクも伴う。



生成AIに渡した後まで面倒を見切れるか

点検画像から報告書をつくる。映像から異常を拾い、過去の記録と比較する。AIの利用を想定すると、ドローンから出たデータは、解析サービス、作業端末、報告書へと形を変えて増えていく。


ここで「機体の記録は秘密分散していた」という説明だけでは不十分だ。復元した画像を外部の生成AIサービスへ送れば、その画像には送信先の保存・利用条件が適用される。分散保存していたことが、送信後のデータまで自動で保護してくれるわけではない。


機密部分を除く、承認された解析環境で処理する、必要な画像だけ渡す。こうしたデータの扱いと秘密分散をつなぐことで、撮影後の業務まで守る設計になる。なお、秘密分散と、内容を秘匿したまま演算する「秘密計算」は同義ではない。秘密分散を採用しただけで、通常の生成AIを秘匿状態のまま動かせることにはならない。



飛ぶ性能に、失った後の責任を加える


DIIJとして、インテグリティ・ドローンの意義は、機体を失う可能性をデータ設計の出発点にしたことにあると考える。高性能なカメラと自律飛行が現場の奥まで入れるようになるほど、持ち帰る情報の価値も高まる。その価値を守る仕組みは、機体の性能と一緒に評価されるべきだ。


「どこの国の機体か」に加えて、「機体だけを持ち出されたら何が読めるか」「誰が復元できるか」「解析後のコピーはどこに残るか」を問う。秘密分散は、その問いに具体的な設計で答えるための選択肢になる。


公開資料の確認日:2026年10月9日。実証に関する記述は各社発表に基づき、運用上の評価・提言はDIIJの考察です。アイキャッチはAI生成の概念画像であり、実際の製品外観を示すものではありません。

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