Matrice 4D型式認証で利する中国、日本だけが遅れていく理由
- 6月26日
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2026年6月19日、DJIの産業用ドローン「Matrice 4D」と「Matrice 4TD」が、日本の第二種型式認証を取得しました。 型式認証書番号は第13号。専用ドローンポート「DJI Dock 3」を含むドローンポート・ソリューションとしては、日本初の型式認証取得です。
遠隔点検、防災、警備、設備監視などにドローンを使う事業者にとっては、明確な前進です。
しかし、産業政策という視点から見ると、少し違った景色が見えてきます。
日本政府は、ドローンの海外依存、とりわけ特定国への供給依存を問題視し、国内生産基盤の構築を進めています。その一方で、日本の認証制度によって最も大きな競争上の利益を得るのは、中国企業であるDJIです。
これはDJIが制度上優遇されたという話ではありません。
むしろ、形式的には公平な制度が、結果として最も規模の大きな海外メーカーを有利にするという構造的な皮肉です。
型式認証取得は大きな前進
Matrice 4Dシリーズは、型式認証だけで自動的に自由な飛行が認められるわけではありません。
対象機体が第二種機体認証を取得し、操縦者が二等以上の技能証明と必要な限定変更を保有すれば、人口集中地区、夜間、目視外、人や物件から30メートル未満という四つの特定飛行について、個別の飛行許可・承認申請が不要になります。
一方、催し場所上空の飛行に加え、操縦者1人が複数のDJI Dock 3を使って多数機を同時運航する場合には、引き続き許可・承認が必要です。
ここが重要です。
ドローンポートの経済価値は、単に人が現地へ行かずに飛ばせることだけではありません。
1人の担当者が、複数拠点、複数機、複数業務を管理できることにあります。
ところが今回の認証で簡素化されるのは、主として1機ごとの飛行手続きです。ドローンポート事業の本丸である「1対多」の運航は、まだ一般ルールとして開放されていません。
機体は認証されました。
しかし、事業モデル全体が認証されたわけではないのです。
型式認証はサプライチェーンを固定してしまう
日本の型式認証は、機体の強度、構造、性能だけでなく、設計や製造過程が安全基準と均一性基準に適合しているかを確認する制度です。安全な量産機を普及させるという点で、その必要性は否定できません。国土交通省も、型式認証には相当の時間を要すると説明しています。
今回の認証では、使用可能なバッテリー、コントロールステーション、通信機器、オプション製品が具体的に指定されています。DJI Dock 3、専用バッテリー、送信機、障害物検知モジュール、D-RTK、Cellular Dongleなどが、一つの認証構成として整理されています。
これは安全性の観点では合理的です。
一方、産業構造の観点では、認証の価値が「機体単体」ではなく、メーカーが提供する製品群、整備手順、証明書、サポート体制を含むエコシステム全体に付着することを意味します。
認証前に製造された機体についても、機体認証を申請するには、DJIが発行する同一性証明書と適合確認書が必要です。故障交換後の機体認証維持にも、DJIの適合確認書が関係します。
つまり、型式認証は安全性を証明するだけではありません。
結果として、認証を取得したメーカーの製品、部品、整備、書類、サポートを一体化し、顧客をその構成の中に長期間とどめる効果を持ちます。
明らかな実力差のある世界に公平な制度の適用は厳しい
型式認証の取得には、機体試験だけでなく、設計資料、製造管理、構成管理、飛行規程、整備手順、継続的な安全管理などが必要です。
これらは、販売台数にかかわらず発生する固定費です。
グローバルな販売基盤を持ち、機体、ドック、クラウド、通信、保守を一体提供できるDJIは、その固定費を多数の製品と顧客に分散できます。
国内メーカーは事情が違います。
経済産業省の2026年の取組方針によれば、日本の産業用ドローン市場では約9割を海外製が占め、国内メーカーによる機体生産は2023年時点で年間約1,000台にとどまります。重要部品についても、海外の特定国への依存が大きいとされています。
販売規模が小さい国内メーカーに、世界規模のメーカーと同じ認証負担を課せば、認証コストを1機当たりに転嫁した際の差は大きくなります。
制度上は平等です。
しかし、事業上は圧倒的に不平等です。
結果として、型式認証が新規参入を促す仕組みではなく、既に規模を持つ企業の参入障壁をさらに強固にする仕組みになり得ます。
中国依存を減らす政策が中国企業の堀を深くする皮肉
経済産業省は、日本で使われる産業用ドローンの9割以上が海外製であり、完成機体と重要部品の双方を特定少数の供給源に依存していると認識しています。
そのため、無人航空機を経済安全保障上の重要物資と位置付け、国内の生産基盤と技術的自律性を高める方針を示しています。政府機関の調達についても、サイバーセキュリティ上のリスクを考慮する制度が導入されています。
ところが、安全規制の側では、認証対応力、量産能力、文書整備能力、保守ネットワークを既に持つ企業が有利になります。
その条件を最もよく満たしている企業の一つがDJIです。
これは、国土交通省が中国企業を優遇しているということではありません。国籍を問わず、安全基準を満たした企業を認証すること自体は当然です。
問題は、安全政策と産業政策の接続です。
経済産業政策では海外依存を減らそうとしながら、航空安全政策では、結果的に海外の最大手プラットフォームが最も有利になる制度を運用しています。
安全行政としては正しい。
産業政策としては逆方向に作用する。
日本のドローン政策には、この部分最適が残っています。
米国Part 108との思想の違い
米国のPart 108との違いは、単純に「日本は機体中心、米国は運航中心」と分ければよいものではありません。
Part 108の提案にも、機体製造、耐空性、運用限界、リモートID、サイバーセキュリティなど、機体側の要求が含まれています。航空機の安全性を業界コンセンサス規格に基づいて受け入れる仕組みも提案されています。
それでも、日本との間には重要な思想の違いがあります。
Part 108が制度の主語としているのは、個々の操縦者よりも、運航事業者と運航システムです。
低リスク運航には運航許可、高リスク・大規模運航には運航証明を求め、後者には安全管理システム、訓練制度、運航監督者、フライトコーディネーターなどの組織的な安全管理を要求します。
さらに、ドローン同士や有人航空機との分離を支援する自動データサービス事業者を制度の中に組み込もうとしています。
つまり、評価しようとしているのは、「この機体は安全か」だけではなく、
「この事業者は、この空域、この機体群、この通信環境、この組織体制で、安全に運航を継続できるか」です。
なお、Part 108は2026年6月時点でも提案段階であり、正式な連邦規則にはなっていません。現行のeCFRでもPart 108は依然としてReservedとされています。また、FAAの提案でも複数機運航は個別評価とされており、米国が既に完全な多数機運航を実現したわけではありません。
米国も完成形ではありません。
それでも、制度がどこへ向かおうとしているかは明確です。
日本が「認証機を、資格保有者が飛ばす」ことから出発しているのに対し、Part 108は「認証された組織が、機体群とサービスを管理する」方向へ移ろうとしています。
日本だけが遅れて見える本当の理由
BVLOSや多数機運航の制度整備に苦しんでいるのは、日本だけではありません。
それでも、日本だけが相対的に遅れて見えるのは、技術力が足りないからではありません。
制度が、ドローン事業の経済構造を十分に捉えていないからです。
第一に、日本では機体認証、操縦者資格、飛行許可という個別要素が制度の中心です。自動運航時代に重要となる、運航会社の安全管理能力、遠隔監視体制、複数拠点管理、ソフトウェア変更管理などを、一つの運航主体として評価する制度はまだ弱いままです。
第二に、政策効果が「申請を省略できるか」で測られがちです。しかし、企業が必要としているのは申請書類の削減だけではありません。1人が何機を管理できるか、1拠点当たりの運航コストをいくらまで下げられるか、年間何回安定運航できるかが重要です。
第三に、安全政策、産業政策、経済安全保障政策の目的が分かれています。国土交通省は飛行安全を、経済産業省は供給網と産業競争力を、政府調達部門は情報セキュリティを重視します。それぞれは合理的ですが、全体として「どのようなドローン産業を国内に構築するのか」という共通設計になっていません。
第四に、国内市場の規模が小さいまま、認証の固定費だけが先に重くなっています。国内メーカーは販売実績が少ないため認証投資を回収できず、認証機が少ないため顧客も導入しにくいという循環に陥ります。
その間に、世界規模で量産し、実運用データを蓄積している海外企業が認証を取得します。
制度が市場を育てる前に、市場の勝者を固定してしまうわけです。
政策的ミスの根幹は「型式認証への過度な依存」
型式認証を導入したこと自体が政策的ミスだったとは言えません。
量産機の安全性と品質の均一性を確認する制度は必要です。
問題は、型式認証を自動運航社会の中心的な解決策として扱うことです。
今後必要なのは、型式認証を廃止することでも、DJIを市場から排除することでもありません。優れた製品を国籍だけで排除すれば、現場の導入コストが上がり、社会実装がさらに遅れる可能性があります。
必要なのは、機体認証とは別に、運航事業者の能力を認証する道を本格的に整備することです。
運航会社の安全管理システム、整備体制、サイバーセキュリティ、通信冗長性、異常時対応、飛行実績を評価し、一定の水準を満たした事業者には、特定区域や一定機数の包括的な運航を認めるべきです。
機体についても、完成品を型式ごとに固定する制度だけでなく、共通規格、モジュール認証、ソフトウェア変更管理を使い、異なるメーカーが参入しやすい仕組みが必要です。
国内メーカーには補助金だけでなく、共通試験設備、認証用データ、適合性証明手法、継続的な公共需要を提供しなければ、量産基盤は育ちません。
認証したのは安全か、それとも中国依存か
Matrice 4Dシリーズの型式認証取得は、DJIにとって大きな成果です。
利用者にとっても、遠隔点検や自動運航を進める現実的な選択肢が増えるという意味で、歓迎すべきニュースです。
ただし、これをそのまま「日本のドローン政策の成功」と評価することはできません。
日本の制度に対応できる企業が増え、複数の機体、複数の運航プラットフォーム、複数のサービス事業者が競争できて初めて、政策として成功したと言えます。
認証取得企業が事実上一社に集約され、その企業の機体、ドック、クラウド、整備、証明書に国内市場が依存するのであれば、日本は安全な市場をつくったのではありません。
安全性と引き換えに、中国サプライチェーンへの依存構造を固定しただけです。
中国依存を減らそうとする日本の政策が、結果として中国企業の競争優位を強める。
Matrice 4Dの型式認証が突き付けたのは、その制度的な皮肉です。
ここ、押さえておきたいところです。




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