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機体の時代の終わり アメリカで進むドローン産業の次の競争軸 Part108解説

  • 6月19日
  • 読了時間: 5分

ドローン業界の価値が「機体」から「運航システム」へ

機体の時代の終わり アメリカで進むドローン産業の次の競争軸


目視外飛行を「特例」から「通常運用」へ


米国FAAが提案しているPart 108は、ドローンのBVLOS、つまり目視外飛行を大きく前進させる制度案です。これまで米国では、商用ドローンの多くはPart 107の枠組みで運航されてきましたが、BVLOSを行うには個別の特例や例外措置が必要でした。Part 108は、この「案件ごとの特例許可」に依存した仕組みを改め、一定の安全要件を満たせば、BVLOSを日常的かつスケーラブルに運航できる制度へ移行させるものです。FAAは2025年8月に、低高度BVLOS運航と、それを支える第三者サービスを対象にした性能ベースの規則案を公表しています。




Part108で許可の対象は「飛行」から「運航システム」へ


Part 108の重要な考え方は、ドローンを単体の機体としてではなく、運航システムとして管理する点にあります。FAA案では、BVLOS運航を行う事業者は、運航の規模やリスクに応じてOperating PermitまたはOperating Certificateを取得する必要があります。これは、単に「このルートを飛ばしてよいか」を審査するのではなく、事業者が安全に継続運航できる体制を持っているかを確認する考え方です。FAAは、Part 108の運航はPart 107よりリスクが高く、有人機との空域競合、より大型の機体、人口密集地上空、配送などの複雑なユースケースを想定しているため、追加的な安全対策が必要だと説明しています。


このため、Part 108では機体性能だけでなく、通信、衝突回避、保守、運航監視、訓練、記録管理、サイバーセキュリティなどが重要になります。従来のように操縦者が目視で安全を確認するのではなく、機体、ソフトウェア、データサービス、運航組織が一体となって安全を担保する構造です。



運航データ&サービス事業者(ADSP)というう新産業レイヤー


Part 108と並んで重要なのが、Part 146で提案されているADSP、Automated Data Service Providerの制度化です。ADSPは、トラフィック管理、戦略的デコンフリクション、コンフォーマンス監視などを通じて、BVLOSドローン同士、または有人機との安全な分離を支える存在です。FAA案では、Part 108のBVLOS運航者は、管理空域での運航において戦略的デコンフリクションやコンフォーマンス監視サービスに参加することが想定されています。



これは、ドローン産業の競争軸が機体販売だけではなくなることを意味します。今後は、ドローンポート、通信、UTM、遠隔運航センター、保守、ログ管理、AI解析、保険、サイバー対策を含む総合的な運航インフラが価値を持つようになります。言い換えれば、Part 108はドローンを「空飛ぶカメラ」から「社会インフラ」へ移すための制度設計です。



一人一機は時代遅れ、今後は遠隔運航センターへ


Part 108では、人が直接操縦する前提から、システムが運航を支える前提へと考え方が移っています。FAAは、Part 107ではRemote Pilot個人の知識や目視確認が安全の中心でしたが、Part 108ではより大型で自動化された運行システム(UAS)を想定し、運航責任を個人ではなく組織に移す「組織責任モデル(corporate responsibility model)」を提案しています。


この方向性は、将来的な複数機運航や遠隔運航センターの普及につながります。運航者には、単に操縦できる人材ではなく、通信状況、機体状態、空域情報、緊急時対応、保守状況を統合的に管理できる人材と組織が求められます。ドローン事業者にとっては、パイロット育成だけでなく、オペレーション設計、システム監視、リスク管理の能力が競争力になります。



日本のドローン産業への示唆


日本では、レベル3.5やレベル4によって目視外飛行の制度整備が進んでいます。しかし、Part 108の視点から見ると、次の競争は「許可を取れるか」ではなく、「継続的に安全運航できる仕組みを持っているか」に移っていきます。特に製鉄所、発電所、化学プラント、港湾、鉄道、送電線、ダムなどのインフラ点検領域では、飛行経路を設計しやすく、立入管理もしやすいため、Part 108型の運航システムを先行して構築しやすい分野です。


日本のドローン事業者は、機体の選定だけでなく、ドローンポート、通信冗長化、遠隔運航センター、UTM連携、保守記録、飛行ログ、異常時対応を一体で設計する必要があります。海外展開を見据える場合は、CONOPS、リスク評価、SMS、通信設計、DAA設計、保守手順、サイバー対策を英語で説明できることも重要になります。



海外事業者にとっての意味


Part 108は米国の制度案ですが、その影響は米国内にとどまりません。米国でBVLOS運航の標準的な安全説明が整えば、投資家、保険会社、インフラ企業、自治体がドローン事業者を見る目も変わります。単に「飛ばせる」だけではなく、「監査可能で、再現性があり、事故時にも説明責任を果たせる」ことが求められるようになります。


欧州のSORAや日本のレベル4制度と同様に、世界的にはドローン運航をリスクベースで管理する方向に進んでいます。したがって、各国制度の細部は異なっても、事業者が準備すべき中身は共通しています。運航コンセプト、地上リスク、空中リスク、通信、DAA、緊急時手順、保守、ログ、セキュリティを体系的に説明できる事業者が、今後のグローバル市場で優位に立ちます。




今後の進み方


2026年6月時点で、Part 108はまだ最終施行済みの規則ではなく、提案段階です。FAAは2026年1月に、ADS-B、電子的視認性、衝突回避、優先通行権などについてコメント期間を再開し、コメント期限を2026年2月11日としました。



今後は、FAAがコメントを踏まえて最終案を公表し、その後、施行日、ガイダンス、申請手続き、機体の耐空証明、ADSPの認証、運航者の許可や認証取得へと進む見通しです。既存の特例や例外措置で行われている配送、農業、測量、飛行試験などの一部運航は、合理的な移行期間を経てPart 108へ移ることが想定されています。


Part 108のインパクトを一言で言えば、ドローン産業を「飛ばせる会社」が勝つ市場から、「安全に、継続的に、監査可能な形で運航できる会社」が勝つ市場へ変えることです。日本企業にとっても、これは米国規制の話にとどまらず、ドローン事業を社会インフラへ進化させるための重要なヒントになります。 ここ、押さえておきたいところです。

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