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3Dプリンティングがドローンを進化させる—機体の性能と「作り直せる速さ」が変わってきた

10月12日
読了時間: 7分

ドローンの進化というと、自律飛行やAI、カメラの性能に目が向きます。しかし、その進化を機体に載せるためには、センサーの取り付け場所を変え、配線を通し、重量と重心を調整しなければなりません。ソフトウェアが進んでも、機体を作り直すのに何か月もかかれば、現場への投入は遅れます。


そこで存在感を増しているのが、3Dプリンティングです。


樹脂製のカバーや試作品を作る道具という印象は、まだ根強く残っています。ところが、2025年から2026年にかけて公表された事例を見ると、話は試作から生産、補修、現場での改良へと広がっています。変わりつつあるのは、ドローンの形だけではありません。機体を開発し、使い続ける方法です。




「試しに作る」から、実際に使う部品を生産するへ


米国の製造事業者Bifrostは、UAV向け部品の需要が増えるなかで、既存の造形設備では品質と生産能力が追いつかなくなりました。そこで導入したのが、Stratasysの粉末床方式「SAF」を用いるH350です。


Stratasysが2025年に公表した事例では、従来の積層造形工程に比べて生産コストが40%低下し、後処理の労務を最大80%削減したとしています。1,000個を超える部品の注文にも対応しました。これは同社の条件下での成果であり、すべてのドローン製造に当てはまる数字ではありません。それでも、3Dプリンティングが量産の選択肢に入っていることを示しています。



金型を作って大量に同じ部品を生産する方法には、依然として強みがあります。一方、搭載機器や用途ごとに仕様が変わり、設計変更も多いドローンでは、金型の費用を回収する前に部品が変わってしまうことがあります。


この「種類は多いが、それぞれの生産数は限られる」という事情が、積層造形と合っています。




軽くするだけでなく、部品の構成を変えられる


HPは、Multi Jet Fusion(MJF)によるドローン部品製造の事例として、物流ドローン企業Bluefliteや、自律飛行機を開発するVecrosなどを紹介しています。Bluefliteについては、48点以上の部品を対象とした25%の軽量化を掲げています。機体全体が25%軽くなったという意味ではなく、対象部品についてのメーカー公表値です。



軽量化は、肉厚を薄くするだけではありません。


別々に作っていたカバー、固定具、配線経路を一つの部品にまとめる。必要な場所にだけ材料を残す。内部に空間を設ける。従来の加工では作りにくかった形を採用できると、部品の数や組み立て方も変えられます。


ただし、軽くなった分が、そのまま飛行時間の延長になるとは限りません。浮いた重量をセンサーや保護構造に使う場合もあります。ドローンにとっての価値は、軽さそのものより、限られた重量の中で何を実現できるかにあります。




材料の進化が、使える場所を広げる


3Dプリント部品を一括りにすると、判断を誤ります。樹脂を溶かして積み上げる方式と、粉末を固める方式では、作れる形や部品の性質が違います。同じ方式でも、材料と造形条件によって結果は変わります。


さらに、短い炭素繊維を樹脂に混ぜた材料と、連続した炭素繊維を配置する複合材も別物です。Markforgedは現在、連続繊維補強を使ったドローン・VTOL向け部品の製造を取り上げています。狙いは、構造の強さと軽さを両立しながら、少量生産や設計変更に対応することです。 [Markforgedの技術紹介]


研究も進んでいます。2025年9月に公開された論文では、連続した繊維を使って、格子構造の軽量ドローンフレームを製造する手法が報告されました。これは研究段階の成果であり、市販機への広範な採用が確認されたという話ではありません。しかし、積層造形の進化が、樹脂の種類を増やすだけでなく、繊維の配置や構造そのものに及んでいることが分かります。 [軽量ドローンフレームの研究論文]


今後は、「3Dプリントだから弱い」「カーボン入りだから強い」といった説明では足りなくなります。どの方向に力がかかり、どの温度で、何回使う部品なのか。その条件に合った材料と製法を選ぶ必要があります。




米陸軍の実験が示す、壊れた後の設計


2026年3月、米陸軍研究所は、兵士の意見を取り入れて開発した実験用ドローン「SPARTA」を紹介しました。組み立てや修理、用途に応じた変更のしやすさを重視した機体です。


発表では、機体の構造部分を一晩で3Dプリントでき、墜落で損傷した場合も、電子機器を新しい構造へ移して再利用できると説明しています。また、3Dプリンターなどを備えた移動式の作業環境「BISON」を使う実験も行われました。 [米陸軍研究所のSPARTA発表]


ここで注目したいのは、防衛用途だけではありません。


ドローンを壊さないよう慎重に使うことに加え、壊れた後にどれだけ早く戻せるかを、最初から設計に入れています。使う人の意見を集め、部品を変更し、再び試す。積層造形が、その往復を短くしています。


民間の点検や研究用途でも、専用のセンサー固定具が破損して部品待ちになることがあります。交換可能な部分をあらかじめ分け、検証済みの設計と製造条件を管理できれば、停止時間を減らす余地があります。




「絵」を「構造」に変える生成AI


3Dプリンティングは、設計の自由度を広げます。しかし、自由に形を作れることと、良い機体を設計できることは別です。


3Dプリンティングでドローン部品を設計、造形、検証、現場利用の順に改良する流れ。DIIJ編集部によるAI生成の概念図。


Bifrostの事例でも、ジェネレーティブデザインや構造の最適化、シミュレーションとの組み合わせが紹介されています。ここでいうジェネレーティブデザインは、対話型AIにドローンの絵を描かせることとは異なります。荷重や固定位置などの条件を与え、その条件に合う構造を探す設計手法です。 [StratasysのBifrost事例]


今後、生成AIや設計支援エージェントが、要求の整理、設計案の比較、試験記録の分析を手伝う場面は増えるでしょう。その案を短期間で部品にできる積層造形があれば、設計と実機試験の間は近づきます。


ただし、AIが出した形にも、強度、振動、熱、重心などの検証は必要です。画面の中で成立した設計を、飛行の安全性と同一視することはできません。




データがあれば、同じ部品をどこでも作れるのか


設計データを送れば、離れた場所でも部品を製造できる。これは積層造形の魅力ですが、データだけで品質までそろうわけではありません。


Stratasys Directの現行サービスは、造形に加えて後処理、組み立て、検査、追跡管理を扱っています。飛行に使う部品を繰り返し生産するには、プリンターから取り出した後の工程も必要だからです。



材料の状態、造形方向、機械の設定、後処理が違えば、同じ設計でも結果が変わる可能性があります。さらに、古い版のデータを使ったり、変更されたファイルを見落としたりすれば、外見だけでは分からない不具合を持ち込むおそれもあります。


分散製造を成立させるには、図面だけでなく、承認された版、製造条件、検査方法、使用履歴まで管理する必要があります。製造拠点を増やすほど、この管理の価値も大きくなります。




日本のドローン産業は、まず現場ごとに違う部品から


日本で考えるなら、機体全体を3Dプリントすることを目標にする必要はありません。


点検用センサーの固定具、カメラの保護カバー、配線を整理する部品、交換しやすい外装。現場ごとに条件が違い、既製品では収まりにくい部分から、効果を確かめられます。


そこに、設計、造形、試験、交換、改良を一貫して引き受ける事業の余地があります。顧客が買いたいのは造形物だけではありません。機体を現場の仕事に合わせ、変更が必要になったときも運用を止めずに対応できる仕組みです。


一方、量産が安定した部品では、射出成形や従来の複合材製造が有利な場合もあります。すべてを積層造形に置き換えるのではなく、変更の多い部分、少量の部分、複雑な形が必要な部分に使う。その使い分けが、事業としての現実的な入口でしょう。


3Dプリンティングがドローンを進化させる理由は、珍しい形の機体を作れるからだけではありません。


使って分かった問題を、次の部品へ反映できる。壊れた部分を戻せる。新しいセンサーに合わせて変更できる。ドローンの性能に加えて、こうした「作り直せる速さ」が競争力になり始めています。


※2026年10月12日時点の公開情報に基づきます。メーカーが示す削減率や性能は各事例の条件下での公表値であり、研究・実験段階の成果とは区別して記述しています。


※画像はDIIJ編集部によるAI生成の概念イメージです。特定メーカーの実機や製造工程を再現したものではありません。


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