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中国製ドローンで稼ぐ―シンガポール企業の海外戦略

10月3日
読了時間: 6分

中国製のドローンを、シンガポールの会社が販売し、飛ばし、点検報告書にして顧客へ納める。機体だけを見れば中国の技術だが、顧客が契約する相手も、現場で仕事を組み立てる会社も、中国メーカーとは限らない。シンガポールのドローン産業を考えるうえで、この分業は見逃せない。


国内に広大な農地や長距離の陸上物流市場を持たない都市国家が、機体の量産規模だけで競争するのは難しい。そこで注目したいのが、外部の機体を利用しながら、導入・運用・データ処理を自社の事業にする戦略だ。中国技術の「入り口」になることと、自国に付加価値を残すことは、両立し得る。問題は、どこまでを自分の仕事として持てるかである。



機体を売るだけではない。点検の発注先になる


その構造が見えるのがAveticsだ。同社はシンガポールのDJI Enterprise正規販売店であり、産業点検や操縦教育も提供している。外壁点検の紹介では、M300を使った画像取得に加え、独自のFlightVaultによるクラウド上の3D可視化、解析、自動報告書作成を掲げる。機体の調達から成果物までを一つの窓口で扱う構成だ。


建物の管理者が必要とするのは、ドローンを所有することではない。外壁のどこに不具合の兆候があり、専門家がどの部分を詳しく確認すべきかを把握することだ。機体はそのための撮影手段になる。撮影計画を作り、現場を運用し、画像を整理して報告書にする会社は、機体メーカーとは別の場所で顧客との関係を持つ。


ここに、中国技術を取り込む側の合理性がある。完成した機体を利用すれば、機体開発に投入するはずだった資源を、顧客の業務を理解することや納品の仕組みづくりへ振り向けられる。Aveticsの提供内容は、中国製品の販売窓口が、そのまま中国製品を使った業務サービスの窓口にもなり得ることを示している。



小さな国内市場を、海外に売るための実績に変える


ただし、点検サービスを国内で受注するだけでは、事業の広がりは国内の設備や顧客数に制約される。シンガポールで重要になるのは、国内を最終的な販売先として見るだけでなく、海外でも提示できる実績を作る場所として使う発想だ。


港湾はその具体例である。海事港湾庁(MPA)は2021年にMaritime Drone Estateを開設し、陸から船への配送や船舶の遠隔点検などの試験環境を設けた。2025年3月の発表では、開設以来の飛行が約1,000回に達し、より大型の機体や複雑な運用に対応する改修方針を示している。これは商用事業の黒字化を示す数字ではないが、狭い国土の中でも、海事業務に用途を絞って運用経験を蓄積してきたことは分かる。


国内に市場が「ない」のではなく、国内の市場だけで量を追いにくい。その条件の下では、港湾や建物といった自国の現場で手順を磨き、似た課題を持つ海外の顧客へ提案する方が筋が通る。輸出する対象は機体そのものに限らず、機体を使って点検や配送を成立させる仕事の組み立て方になる。


地域展開は企業のサービスにも表れている。Garuda Roboticsは東南アジアでの業務提供を掲げ、アブラヤシなどの農園のマッピング、石油・ガス貯蔵施設の点検、建物や太陽光パネルの3Dモデル作成を実績として挙げる。シンガポール国内だけを眺めていては見えにくい農業需要も、周辺国まで含めれば事業の対象になる。なお、これは海外需要を取り込む例であり、同社の機体が中国製であるとする根拠ではない。



中国にとっての販路、シンガポールにとっての事業基盤


この分業を中国メーカー側から見れば、現地企業が導入支援、教育、点検業務を担うことで、機体を使える顧客が増える。シンガポール側から見れば、外部の機体を事業の基盤にできる。双方の利害が合うため、現地企業が成長することと、中国製機体の利用が広がることは、同時に起こり得る。


つまり、シンガポール企業との協業が増えたからといって、中国技術への依存が薄まったとは限らない。契約の窓口と、技術の供給元は別だからだ。一方で、中国製機体を使う会社を単なる転売業者として扱うと、運用や解析、顧客対応に蓄積された価値を見落とす。見るべきなのは会社の看板ではなく、どの機能を誰が供給し、顧客が何に対して対価を払っているかである。


ただし、販売からサービスへ進めば必ず利益が増えるわけではない。国ごとに飛行条件や顧客の要求が変わり、案件のたびに人を送り込んで作業を組み直すなら、売上と一緒に費用も増える。海外戦略の成否を分けるのは、国内で作った手順やソフトを別の現場でも再利用し、同じ人数で扱える案件を増やせるかどうかだ。



日本にとっての競争相手は、機体メーカーだけではない


この構造は、日本企業に二つの問いを突き付ける。第一に、シンガポール企業からサービスを買うとき、何を買っているのか。機体、解析ソフト、運用人員、データの保存・管理は別々に確認する必要がある。例えばGaruda Roboticsは、Garuda Plexの標準的なプランをシンガポールのデータセンターで運用し、要件に応じたプライベートクラウドの選択肢も示す。機体の原産地とデータ管理の設計は、一つの国名では説明できない。


第二に、日本製の機体を海外へ売るとき、誰が顧客の発注を取りまとめるのか。現地のサービス会社が機体を選び、点検を受注し、報告書を納めるなら、日本メーカーは重要な部品供給者でありながら、顧客が次に何を欲しがっているかを直接つかめない可能性がある。性能を磨くだけでなく、自社が顧客との関係を持つのか、現地企業に委ねて供給側に徹するのかを決める必要がある。


シンガポールの事例が示すのは、機体を自国で全て作らなくても、ドローン産業の中で仕事を持てるということだ。中国の機体を地域の現場へ届ける「入り口」は、同時に、地域の顧客がドローン業務を発注する窓口にもなる。そこを確保できれば、外部技術を使いながら自社の事業を育てられる。


DIIJが注目するのは、この顧客接点をめぐる競争である。日本が国産機の性能向上を進める間に、誰が現場の課題を聞き、仕様を決め、契約を獲得するのか。シンガポール企業の動向は、海外市場で日本の機体が売れるかという問いに加え、その機体を使った事業を誰が主導するのかという問いとして読むべきだ。


本稿は2026年10月3日時点で確認した公開資料に基づくDIIJの論考。企業の提供内容と編集部の事業分析を記載しており、各社の収益性を示すものではない。アイキャッチはAI生成イメージ。

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