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解体現場で生きるドローン—壊す前に知り、変わり続ける現場を捉える

10月18日
読了時間: 7分

建物を建てる工事では、完成に向けて形が整っていきます。解体工事では、その逆が起きます。昨日あった壁がなくなり、床が抜け、重機の配置も搬出経路も変わります。


しかも、古い建物ほど図面と現況が一致するとは限りません。増改築の履歴が分からない、屋根や高所に近づけない、内部に入ること自体が危険。解体の前提になる「今、どうなっているか」をつかむのが難しいのです。


解体現場でのドローン活用は、この情報の空白を埋めるところにあります。壊す前の調査から、工事中の変化の記録、なくなってしまう建物の保存まで。実際の事例と、そこから考えられる使い道を見ていきます。

解体現場のドローン活用を着工前・工事中・完了時に分け、内部調査、3D共有、進捗記録、仮置き場や動線の把握を説明するAI生成の概念図。
解体前の調査、工事中の記録、完了時の説明をまとめた活用の概念図。AI生成。図中の日付・現場は架空で、調査・管理業務を代替するものではありません。



① 壊す前に、建物全体の形をつかむ


フランスのメスで解体予定の冷却塔3基を調査したSoprecoは、写真測量とLiDARを組み合わせて3Dモデルを作りました。DJIが2021年に紹介した事例で、Zenmuse P1とL1で集めたデータを、解体工事の入札に参加する企業との情報共有にも使っています。出典:DJI Enterprise/Soprecoの冷却塔調査


現況を立体的に見られれば、構造物のどこに近づく必要があるか、周囲にどれだけ空間があるかを、関係者が同じ画面で確認できます。写真を何十枚も見比べるより、打ち合わせの前提をそろえやすくなります。


ただし、形が分かることと、構造物の強度が分かることは別です。点群だけで残存耐力や倒壊の危険性まで判定できるわけではありません。ドローンは、構造の専門家が判断するための材料を増やす道具として位置づける必要があります。


この事例でも、塔の内部ではGNSSの精度が悪くなるため、訓練を受けた操縦者が手動で対応しています。3D計測ができるからといって、どこでも自動で飛べるわけではないのです。



② 人が入る前に、危険な内部をのぞく


火災や老朽化で傷んだ建物では、「確認するために入る」ことが危険になります。天井裏、吹き抜け、損傷した床の先などは、外から見ただけでは状態を判断できません。


Flyabilityが紹介するオランダの事例では、Tetra Techが火災で損傷した建物の屋根裏をElios 3で調査し、映像とLiDARデータを取得しました。これは解体ではなく修復計画のための調査ですが、人が安全に入れない空間を遠隔で確認するという点は、解体前調査にも参考になります。出典:Flyability/火災損傷建物の内部調査


プロペラを囲うケージや照明を備えた屋内機には、一般的な空撮機とは違う役割があります。一方、垂れ下がった配線への絡まり、狭い開口部、通信の遮蔽、粉じんなど、屋内ならではの条件もあります。


特に解体前の建物では、ローターの風で粉じんを巻き上げることも考えなければなりません。有害物質が疑われる空間に、調査の準備もなく機体を入れる運用は避けるべきです。



③ 工事の進み方を、同じ視点で記録する


国内でも、解体工事をドローンで記録する例があります。誠和建設は2021年、イオン御経塚の解体途中の様子をドローンで撮影した写真を公開しています。この公開情報で確認できるのは空撮記録であり、自動解析や安全性の改善効果まで示されたものではありません。出典:誠和建設「解体中・今月の安全標語」


記録を業務に使うなら、「毎回きれいに撮る」より「前回と比べられる」ことが大切です。撮影位置、向き、対象範囲と日時をそろえることで、どの棟まで解体が進んだか、どこに残置物があるかを確認しやすくなります。


建物の解体過程を複数時点のドローン写真から点群化し、体積の変化を捉える研究もあります。ただし、研究で得られた精度を、粉じんや遮蔽物の多い現場にそのまま当てはめることはできません。比較するデータの位置合わせや、見えていない部分の扱いまで含めて検証が必要です。出典:Xuら、2021年/UAV写真測量による解体過程の変化検出


現場でまず使いやすいのは、週ごとの全景と、作業区画ごとの写真を時系列で残す運用でしょう。現場に来られない発注者にも進捗を伝えやすく、工程会議の資料にもなります。



④ がれきの置き場と、搬出の段取りを見直す


解体が進むと、敷地の中にはがれきや分別した資材がたまっていきます。重機が動く場所、トラックが入る場所、作業員が通る場所を、その都度調整しなければなりません。


ここからは活用の提案です。上空写真を地図のように使えるオルソ画像にすれば、資材の仮置き場や搬出動線を、関係者で共有する資料にできます。3D計測と組み合わせれば、見えている堆積物の体積を推定し、置き場の余裕を考える手がかりにもなります。


ただし、体積が分かっても重量は確定しません。コンクリート、金属、木材が混ざれば密度も変わります。ドローンによる体積推定は、計量や廃棄物管理の記録を置き換えるものではありません。


また、撮影した地図は、その時点の状態です。動いている重機の死角や人の接近を常時監視する仕組みとは異なります。配置の検討を助ける使い方と、リアルタイムの安全管理は分けて考える必要があります。



⑤ 危険を「場所」と結びつけて残す


特殊な解体分野では、画像以外の情報を3D空間に重ねる使い方もあります。


英国のセラフィールドでは、ドローンと放射線マッピング技術を組み合わせたRISERが導入されました。英国政府の2016年の公表資料では、Windscale Pileで内部の汚染分布を調べ、廃止措置の計画に必要な情報を取得したとされています。通常の解体工事と同じ条件ではありませんが、人が近づきにくい場所の情報を、位置と結びつけて得る事例です。出典:英国政府/SellafieldにおけるRISERの活用


一般の建物でも、調査で見つかった損傷や、立ち入りに注意が必要な区画を、図面や3Dモデル上に記録する使い方は考えられます。単に写真を保管するだけでなく、「この情報はどこのものか」が分かることに意味があります。


一方、通常のドローン画像だけでアスベストの有無を判定することはできません。解体・改修工事に必要な石綿の事前調査などは、所定の方法で行う必要があります。映像が鮮明であることと、有害物質を特定できることを混同してはいけません。出典:厚生労働省/石綿障害予防規則など関係法令



⑥ なくなる前と、なくなった後を残す


解体してしまえば、同じ建物をもう一度撮ることはできません。工場、学校、商業施設などを、解体前に立体的な記録として残す使い道もあります。


写真測量による3Dモデルや、見た目を再現する3D Gaussian Splatting(3DGS)は、建物の記憶を残したり、離れた場所の人に現況を伝えたりする表現として考えられます。これは本稿での活用提案で、先に挙げた事例で3DGSが使われたという意味ではありません。


また、実写に近く見える3DGSと、寸法の正確さを検証した測量成果は、目的が異なります。展示や説明用の記録と、数量算出や施工判断に使うデータは、必要な品質を分けて管理することになります。


解体後の全景も記録として役立ちますが、上から更地に見えることだけで、地中の基礎や埋設物、土壌の問題まで解消されたとは判断できません。



飛ばすことより、誰が何を判断するか


解体現場は、繰り返し撮影するほど変化を捉えられる一方、昨日の飛行経路が今日も使えるとは限らない場所です。足場やワイヤーが増え、構造物がなくなり、重機の配置も変わります。


GNSSが使えない場所ではVIOやLiDARによる自己位置推定が選択肢になりますが、暗さ、粉じん、単調な壁面など、方式ごとの苦手な条件があります。屋内対応機だから、どんな解体現場にも入れるということではありません。


現場責任者と撮影の目的や時間帯を決め、重機作業との分離、立入管理、通信が途切れた場合の対応まで含めて運用を組み立てる必要があります。


導入を考える際には、「ドローンで何を撮れるか」から一歩進めて、「そのデータを誰が、いつ、何の判断に使うか」を先に決めると、必要な機材も成果物も絞れます。


解体前の見積もりを具体化する。危険な内部を人が入る前に確認する。進捗を発注者と共有する。使い道はそれぞれ違います。変わり続ける現場の情報を、次の判断に使える形で届けること。解体とドローンの接点は、そこにあります。


※2026年10月18日時点の公開資料をもとに構成しています。過去の導入事例、メーカー公表事例、研究段階の手法、本稿での活用提案を区別して記載しています。

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