熊対策!ドローンはどう使える?
- 5月27日
- 読了時間: 9分
更新日:5月28日
使える技術のはずのドローン、現場実装は進んでいるの?

全国で熊の出没や人身被害が深刻化しています。
環境省の速報値では、令和7年度のクマ類による人身被害は216件、被害人数238人、死亡者13人となっています。もはや熊対策は、一部の山間地域だけの課題ではなく、住宅地、農地、学校、観光地、インフラ管理の現場にも関わる地域安全のテーマになっています。(環境省クマ被害統計)
そこで注目されているのが、サーマルカメラやズームカメラを搭載したドローンです。夜間や早朝、河川敷、山林の入口、農地周辺など、人が入りにくい場所を上空から確認できるからです。ただし、「ドローンを買えば熊対策が進む」という話ではありません。
むしろ現実は逆で、技術はあるのに、運用のほうが追いついていません。
熊対策ドローンができることは「見つける」だけ?
熊対策におけるドローンの役割は、単なる空撮ではありません。
まず期待されるのは、サーマルカメラによる熱源の発見です。草むらや暗い場所では目視確認が難しいため、熱を手がかりに動物の存在を探し、その後に可視光カメラで熊かどうかを確認します。
福島県昭和村の事例では、サーマルカメラと可視光カメラを組み合わせ、高度40〜90メートルで地上を監視し、熊と思われる動物を発見した場合には位置情報を地図にプロットし、映像とともに猟友会へ共有しています。
この使い方が重要です。ドローンの価値は「熊の映像が撮れた」ことではありません。熊の位置、移動方向、獣道、周辺状況を把握し、自治体、警察、猟友会、住民への情報共有を早めることにあります。つまり、ドローンは熊を退治する機械ではなく、現場対応の判断を早くするための“空の目”です。
さらに、スピーカーを使った追い払いや、熊が通った経路を把握して罠の設置場所を検討する使い方も出てきています。NTTドコモビジネスが発表した熊対策ソリューションでは、AIによる早期検知、高解像度カメラとサーマルカメラを搭載したセルラードローンによる現場確認、獣道の発見、スピーカーによる追い払い、地域アプリによる住民への情報発信までを一体化する構想が示されています。
ここで見えてくるのは、ドローン単体ではなく、「検知する」「確認する」「判断する」「共有する」「住民に知らせる」という一連の流れです。熊対策で本当に必要なのは、ドローンそのものより、ドローンを組み込んだ地域の対応システムです。

国内では事例が出始めてはいるが
国内でも、熊対策にドローンを使う事例は出始めています。
福島県昭和村では、2025年10月からセルラードローン「Skydio X10」を熊対策に活用しています。昭和村はもともと山岳遭難対応や設備点検のために同機体を導入しており、その運用範囲を熊対策へ広げた形です。目撃情報を受けてドローンで探索し、現地に熊などがいる場合にはスピーカーによる追い払い、位置情報に基づく罠設置、有害鳥獣ダッシュボードへの情報共有を行う流れが紹介されています。
ドローンジャーナルの取材では、昭和村のドローンパイロットは3名で、熊の出没情報が入るたびに現地へ向かい、12月までに計84回のフライトを実施したとされています。サーマルカメラで熱源を見つけ、可視光カメラで動物種を確認し、映像と位置情報を猟友会や住民向けダッシュボードへ共有する運用は、かなり実践的な事例です。
一方で、これは「全国で実装が進んでいる」という話ではありません。
むしろ、ここまでできている自治体がまだ珍しいからこそ、事例として取り上げられているとも言えます。
実装が当たり前になっていれば、ニュースにはなりません。ニュースになるということは、まだ珍しいということです。
海外では「追い払い」に一定の成果
海外では、熊の追い払いにドローンを使う研究も行われています。米国モンタナ州で行われたグリズリーベアの追い払い研究では、ドローン、車両、発射体、犬などの手法が比較されました。
Frontiers in Conservation Scienceに掲載された論文によると、成功を「熊が200メートル以上離れること」とした場合、ドローンの成功率は91%で、犬の57%、発射体の74%、車両の85%を上回りました。ただし、車両や発射体との差は統計的に明確と言い切れるものではなく、ドローンだけが万能という結論ではありません。
それでも、ドローンには大きな利点があります。フェンス、泥地、農地、水路など、地上から追跡しにくい場所でも上空から熊の動きを確認しやすいからです。日本でも、河川敷、山林の縁、農地周辺、集落の裏山など、人が入るには危険な場所での初動確認には向いています。
ただし、追い払いは非常に慎重な設計が必要です。熊をただ驚かせればよいわけではありません。逃げる方向を誤れば、熊を住宅地、道路、学校、観光客のいる方向へ押し出してしまう可能性があります。
ドローンで追い払うというと未来的に聞こえますが、実際には「どちらへ逃がすか」を設計できなければ危険です。
実は、「見つけた後」の方が大変
熊対策ドローンの議論で抜け落ちがちなのが、見つけた後の問題です。
ドローンで熊を発見できたとしても、その後に誰が判断するのでしょうか。警察が動くのか、猟友会が出るのか、自治体職員が住民へ避難を呼びかけるのか、道路を止めるのか、学校へ連絡するのか、罠を置くのか、追い払うのか、捕獲するのか。この判断が決まっていなければ、ドローン映像は「すごい熊映像」で終わります。
環境省の「クマ類出没対応マニュアル-改定版-」でも、出没に備える項目として、人とクマ類のすみ分け、連絡体制の構築、出没状況に応じた対応方針の作成、研修と人員配置、人の生活圏への出没防止などが示されています。つまり、国のマニュアルも、熊対策の本丸を「機材」ではなく「体制」と見ています。
ドローンは、現場の見えなさを解決します。しかし、行政判断の遅さや、関係者間の役割分担の曖昧さまでは自動で解決しません。
なぜ実装が進まないのか
実装が進まない最大の理由は、熊対策ドローンが「ドローン案件」ではなく「自治体オペレーション案件」だからです。機体を買うことよりも、通報を受けた後の出動基準、飛行判断、飛行許可、現場指揮、映像確認、猟友会との連携、住民への通知、事後記録までを決めることのほうが難しいのです。
二つ目の理由は、法制度と安全管理です。国土交通省は、人口集中地区の上空、夜間飛行、目視外飛行、人または物件から30メートル以上の距離が確保できない飛行、危険物輸送、物件投下などについて、許可・承認が必要となる場合を示しています(国道交通省サイト)。熊対策は、まさに夜間、住宅地周辺、緊急対応、目視外になりやすい現場で起きます。つまり、普通の空撮よりも運用設計が重くなります。
三つ目の理由は、人材不足です。ドローンを導入しても、飛ばせる人がいなければ動きません。昭和村の事例でも、ドローンパイロットは3名で、長時間運用が続く熊出没時には負担となっており、今後の追加育成が課題だとされています。機体は一度買えば置いておけますが、人材は置いておくだけでは育ちません。
四つ目の理由は、資機材と体制がそもそも足りていないことです。政府の「クマ被害対策ロードマップ」では、令和8年3月時点の整備状況として、クマの捕獲作業に従事する自治体職員数784名、はこわな5,527基、クマ撃退スプレー7,093本が示されています。そのうえで、2030年度までに自治体職員2,500名、はこわな10,000基、クマ撃退スプレー20,000本を目標にしています。言い換えれば、現時点では足りていないから、これから増やすという話です。
ここに、少し辛口な現実があります。
ドローンだ、AIだ、DXだと言っても、現場の基礎体力が足りていなければ回りません。最新技術の前に、そもそも人が足りない、罠が足りない、スプレーが足りない、判断する人が足りない。ドローンだけが空を飛んでも、地域の体制が地上に置き去りでは意味がありません。
国もドローン活用を見てるはずだが、、、
政府のロードマップには、ICTやドローンなどの最新技術を活用した出没情報の収集・提供への支援、わなの見回り負担軽減に資するICT機器の活用支援、被害対策や捕獲方法の技術開発支援が盛り込まれています。これは前向きな動きです。一方で、ロードマップに書かれているということは、裏を返せば、まだ全国標準の運用として定着していないということでもあります。
「これから支援します」「これから技術開発します」「これから自治体の体制整備を進めます」という段階である以上、熊対策ドローンはまだ社会実装の入口に立ったところです。実証はあります。モデルもあります。先進事例もあります。でも、全国の自治体で当たり前に使えるところまでは来ていません。
ここを曖昧にして「ドローンで熊対策が進んでいます」と書くと、少し未来を盛りすぎです。正しくは、「ドローンで熊対策を進められる可能性があり、ようやく実装モデルが出始めた」です。
野生動物へのストレスも
ドローンは人間にとって安全確認の道具ですが、野生動物にとってはストレス要因になる可能性があります。アメリカクロクマを対象にした研究では、ドローンに対して目立った行動変化が少ない場合でも、心拍数が大きく上昇し、最大で飛行前より123拍/分上昇したと報告されています。
つまり、熊が逃げないからといって、影響がないわけではありません。見た目には平静でも、生理的には強いストレスを受けている可能性があります。熊対策にドローンを使う場合は、必要以上に接近しない、長時間追い回さない、子連れや冬眠期など敏感な状況では慎重に扱う、といったルールが必要です。
人の安全を守るための技術であっても、野生動物への影響を無視してよいわけではありません。ここを雑にすると、地域の理解も得にくくなります。
これは「機体」ではなく「産業実装」の話
熊対策ドローンを本ブログ的に見るなら、これは機体販売の話ではありません。サーマルカメラ付きドローンを自治体に売るだけでは、社会実装とは言えません。必要なのは、通報、出動、飛行、映像確認、関係機関連携、住民通知、追い払い、捕獲判断、記録、検証までをつなぐ運用設計です。
言い換えれば、熊対策ドローンの本質は「空から熊を見ること」ではなく、「地域の意思決定を早くすること」です。熊がどこにいるのか分からない時間を短くし、危険な場所に人が入る回数を減らし、猟友会や警察、自治体職員がより安全に判断できるようにする。そこにドローンの価値があります。
ただし、その価値を出すには、自治体だけでなく、ドローン事業者、通信事業者、GIS事業者、警察、消防、猟友会、地域住民まで巻き込む必要があります。つまり、ドローン産業側に求められているのは、「飛ばせます」ではなく、「地域の業務に組み込めます」です。
ドローンは使える。でも、まだ足りない。
熊対策にドローンは使えます。
サーマルカメラで発見し、可視光カメラで確認し、位置情報を共有し、スピーカーで追い払い、獣道を把握し、罠の設置や住民への注意喚起につなげることができます。国内でも昭和村のような実践例が出ており、海外でも追い払いへの有効性を示す研究があります。
しかし、社会実装という意味では、まだ始まったばかりです。
技術はあります。機体もあります。サーマルカメラもあります。AIもあります。それでも進まないのは、熊対策がドローンだけでは完結しないからです。法制度、人材、予算、関係機関連携、住民説明、現場判断という、地味で面倒な部分を整えなければ、ドローンはただの“空飛ぶ確認係”で終わります。
空から見えるようになっても、地域で動けなければ安全にはつながりません。
ここ、押さえておきたいところです。









コメント