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光ファイバーFPVと重要インフラ防護

  • 5月1日
  • 読了時間: 11分

安全保障の盲点は「対ドローン更新能力」



ドローン対策の前提が、静かに崩れ始めています。


これまで小型ドローン、特にFPVドローンへの対処は、多くの場合「電波」を中心に考えられてきました。


操縦電波を探知し、

映像伝送を妨害し、

GNSSを妨害し、

あるいは通信リンクを遮断して機体を墜落させる。


しかし、ウクライナ戦争で急速に実戦化された光ファイバー制御型FPVドローンは、この前提を根本から揺さぶっています。


光ファイバー制御型FPVドローンとは、機体と操縦者を極細の光ファイバーケーブルで物理的につなぎ、操縦信号や映像を有線で伝送するドローンです。


無線操縦ではないため、従来型のジャミングが効きにくくなります。

電波を出さないため、RF探知にも引っかかりにくくなります。


これは高度なAI兵器というより、むしろ古い有線誘導兵器の思想を、安価なFPVドローンに移植したものだと見るべきです。


重要なのは、この技術がもはやウクライナ戦線だけの特殊事例ではなくなりつつあることです。


AP通信は2026年4月30日、ヒズボラがイスラエル北部および南レバノン周辺で、光ファイバーケーブルにより制御される小型ドローンを投入していると報じました。


報道では、これらのドローンはウクライナ戦争で広く使われている技術であり、極細のケーブルで操縦者と接続されるため電子妨害を受けにくく、イスラエル兵の死傷にもつながっているとされています。


これは一つの地域紛争の話ではありません。

ウクライナで磨かれたドローン戦術が、中東へと拡散している兆候です。




ウクライナで起きたこと


ウクライナ戦争では、電子戦が急速に発達しました。


ロシア軍もウクライナ軍も、FPVドローンや偵察ドローンを妨害するため、前線に多数のジャマーを展開してきました。


その結果、通常の無線リンクに依存するドローンは、以前よりも飛ばしにくくなりました。


この環境の中で登場したのが、光ファイバー制御型FPVです。


ウクライナ国防省は2025年1月、複数の国内メーカーが開発した光ファイバー制御型FPVドローンの実証を行い、一部は最大3kg級のペイロードを搭載可能だったと発表しました。


これは、光ファイバーFPVが単なる試作品ではなく、軍の導入プロセスに乗り始めていたことを示しています。


また、ISWは2025年1月、ロシア軍が電子戦を回避するため、光ファイバーケーブルで接続されたドローンの使用を増やしていると分析しています。


ISWは、これらの機体は通常のFPVより遅く機動性に劣る一方、電子戦への耐性を持つため、前線全域で新たな問題を生み出していると指摘しています。


つまり、光ファイバーFPVは「高性能だから広がった」のではありません。


むしろ逆です。


電子戦が強くなりすぎたため、戦場が有線に戻ったのです。

ここに、この技術の本質があります。


ドローンは無線で飛ぶものだ、という常識。ドローン対策は電波を押さえればよい、という常識。

その二つが、実戦によって崩されつつあります。





光ファイバードローン、ヒズボラへの拡散


ヒズボラによる光ファイバーFPVの使用が重要なのは、それが「技術の拡散」を意味するからです。


ウクライナ戦争は、ドローン戦術の巨大な実験場となりました。


そこでは、商用部品、3Dプリンティング、現場改造、即応的な調達、分散生産が組み合わさり、兵器開発の速度が従来の軍需産業とは別次元で進みました。


その成果が、国家軍だけでなく、非国家主体にも届き始めています。


AP通信の報道では、イスラエル側の見方として、ヒズボラの光ファイバー型ドローンは市販部品や入手しやすいワイヤーを使って現地製造されている可能性があるとされています。


ここで見るべきは、個別の機体性能ではありません。技術移転の単位が、完成兵器ではなく「作り方」と「運用思想」になっているという点です。


ミサイルであれば、製造設備、推進剤、誘導装置、試験設備が必要になります。


しかしFPVドローンは、はるかに軽い産業基盤で成立します。


そこに光ファイバー制御が加わることで、電子戦に強い近距離精密攻撃手段が、より多くの主体に開かれてしまいます。


これは、日本にとっても他人事ではありません。





アイアンドームは無効化されうる?


この話題で出てくるのが、「アイアンドームは無効化されるのか」という問いです。


結論から言えば、アイアンドームそのものが無意味になることはないでしょう。


しかし、アイアンドームのような高性能な防空システムだけでは守りきれない領域が広がる、というのは間違いありません。


アイアンドームは、短距離ロケット、砲弾、迫撃砲などを迎撃するために設計・運用されてきたイスラエルの誇る短距離防空システムです。


CSISは、アイアンドームをイスラエルの多層防空の最下層に位置づけ、ロケット、砲弾、迫撃砲、ドローン攻撃などに対応するシステムとして説明しています。



つまり、アイアンドームはドローンを一切扱えないわけではありません。

問題は、光ファイバーFPVが突いているのが、アイアンドームの「正面」ではなく「隙間」だということです。


小型FPVは、低く、遅く、小さく、安い存在です。しかも光ファイバー型は無線信号を発しないため、RF探知や通信妨害に依存する防御の外側を飛びます。


迎撃ミサイルで落とせる場合があっても、数十万円から数百万円規模の迎撃体で、数万円から数十万円規模の小型機を毎回撃ち落とすのは、費用対効果の面で厳しくなります。


したがって、アイアンドームが「無効化」されるというより、より正確にはこう言えます。


高価な防空システムの下に、安価で近距離・低高度・非電波型の脅威が潜り込んでくるのです。


これはミサイル防衛の問題ではなく、重要施設の近接防護の問題です。




日本の電波法という“防波堤”をすり抜ける可能性


日本におけるドローン運用においては、航空法だけでなく電波法が大きな制約となっています。


国土交通省の無人航空機関連の教則では、無人航空機の操縦や画像伝送には電波を発射する無線設備が使われるため、日本国内で使う場合は国内の技術基準に合致した無線設備を使用し、原則として総務大臣の免許や登録を受ける必要があると説明されています。


例外として、微弱な無線局や一部の小電力無線局は免許・登録が不要とされています。


また、169MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯を用いる無人移動体画像伝送システムについては、運用調整の枠組みが存在します。


JUTMは、これらの周波数に関して、無人移動体画像伝送システムの無線局の円滑な運用や混信防止のため、関係者間の運用調整を行う枠組みを説明しています。


これは、通常のドローン運用に対しては重要な制度です。

しかし、光ファイバー制御型FPVは、この制度的前提をすり抜ける可能性があります。


なぜなら、操縦・映像伝送の中核が無線ではなく有線になるからです。


もちろん、機体そのものの飛行、持ち込み、飛行場所、飛行方法は航空法や小型無人機等飛行禁止法の規制対象であり続けます。


だが、少なくとも「違法な電波を出しているから探知する」「操縦電波を妨害する」という対処は効きにくくなります。


これは、法規制を前提にした探知・抑止・摘発だけでは、脅威の技術変化に追いつけないという話です。





日本の重要インフラ防護は、近接・低高度・非電波型脅威を想定しているか


日本には、ドローン飛行を規制する制度がすでにあります。


小型無人機等飛行禁止法では、国の重要施設、外国公館、防衛関係施設、対象空港、対象原子力事業所などの周辺地域で、小型無人機等の飛行が恒常的に禁止されています。



国土交通省も、指定された空港の敷地・区域やその周辺おおむね300mでは、重さや大きさにかかわらず小型無人機等の飛行が禁止されると説明しています。



しかし、ここで考えるべきは「禁止されているか」ではありません。禁止を破る主体が現れたとき、検知し、識別し、阻止し、被害を局限できるかです。


特に日本海側の原子力関連施設、港湾、空港、発電所、通信インフラ、燃料備蓄施設などは、地理的にも安全保障上の意味が大きい施設です。


従来型のドローンであれば、飛行禁止、無線探知、操縦者特定、ジャミングといった対策が一定の効果を持ちます。


しかし、光ファイバーFPVでは、少なくとも「電波を探す」「電波を止める」という発想が中心では不十分になります。


さらに、今後は地上からだけでなく、車両や船舶を起点とする運用も想定すべきです。

これは特定の攻撃手法を述べるものではなく、防護側のリスク評価として当然に考えるべき範囲です。


光ファイバー型は通信局や電波中継への依存が小さいため、近接した移動プラットフォームからの短時間運用というリスクを排除できません。


つまり、防護対象は「空」だけを見ていては足りません。


周辺道路、海上接近、港湾、係留施設、臨海部、イベント時の一時的な死角まで含めた、立体的な防護設計が必要になります。




対策は「装備を買う」ではなく「更新し続ける仕組み」を作ること


光ファイバーFPVへの対策は、単一の装備では完結しません。


無線探知だけでは不十分になります。

ジャミングだけでは不十分になります。

高価な迎撃ミサイルだけでは費用対効果が合いません。

目視だけでは間に合いません。

警備員の増員だけでも足りません。

必要なのは、多層化です。


防護側は、少なくとも次のような考え方を持つ必要があります。


第一に、RF探知に依存しない検知です。

小型・低高度・非電波型の機体を、レーダー、音響、光学、赤外線、監視カメラ、AI画像解析などを組み合わせて検知する必要があります。


第二に、ジャミング以外の無力化手段です。 ネット、物理遮蔽、近距離迎撃、指向性エネルギー、重要部位のハードニングなど、電波妨害に依存しない選択肢を持つ必要があります。防衛省の令和7年版防衛白書でも、小型UAV等への対処として、レーザーや高出力マイクロ波などの指向性エネルギー技術の早期装備化が言及されています。


第三に、施設ごとの脅威モデリングです。 原子力関連施設、空港、港湾、発電所、通信施設では、脅威の接近経路も、必要な検知距離も、許容できる誤警報率も異なります。全国一律の仕様書で済む問題ではありません。


第四に、調達と実証の高速化です。 ウクライナの教訓は、ドローン戦が月単位、時には週単位で変化するということです。


ウクライナ国防省は2025年11月、DOT-Chain Defenceを通じて10万機超のFPVドローンが部隊に届けられ、その約3分の1が光ファイバー制御型であり、平均納期は7日だったと発表しています。


もちろん、日本の行政・防衛調達を戦時下のウクライナと同列に扱うことはできませんが、脅威の進化速度が従来の調達フローより速いことは、もはや明らかです。


数年かけて要求仕様を固め、入札し、検収し、配備する。その間に、攻撃側の技術は二世代、三世代進みます。これでは、対策が完成した頃には、すでに古い脅威にしか対応できません。




必要なのは「対ドローン装備」ではなく「対ドローン更新能力」


ここで日本が考えるべきことは、単に「どのカウンタードローン装備を買うか」ではありません。


必要なのは、対ドローン更新能力です。


脅威が変わります。

センサーを変えます。

アルゴリズムを変えます。

防護手順を変えます。

施設配置を変えます。

訓練を変えます。

法運用を変えます。

調達を変えます。

このサイクルを、年単位ではなく月単位で回せるかどうかが問われています。


光ファイバーFPVは、おそらく最後の脅威ではありません。


次には、無線と有線を併用するハイブリッド型、画像認識による終末誘導型、複数機の分散運用型、車両・船舶・地上ロボットと組み合わされた運用が出てくるでしょう。


防護側が一つの技術に対応した瞬間、攻撃側は別の経路を探します。この「いたちごっこ」そのものが、現代のドローン戦の本質です。


だからこそ、日本の重要インフラ防護は、特定のドローン機種への対策ではなく、新しい脅威が次々に出てくることを前提にした制度設計へ移らなければなりません。




ドローンは「空飛ぶラジコン」ではない


光ファイバーFPVが示しているのは、ドローン技術の一変種ではありません。それは、ドローン対策の思想の転換です。


ドローンは、電波で操縦される。だから電波を探せばよい。だから電波を止めればよい。だから法令で使用周波数を管理すればよい。


この考え方は、もはや十分ではありません。


ウクライナで生まれ、あるいは実戦的に磨かれた技術が、ヒズボラを通じて中東へと現れています。

それは、安価で、現場適応性が高く、電子戦を回避し、既存の防空体系の隙間を突くものです。


アイアンドームを完全に無効化するわけではありません。

しかし、高価な防空システムだけでは守れない、低高度・近距離・非電波型の領域を確実に広げています。


日本に必要なのは、危機が起きてからの対策ではありません。


原子力関連施設、空港、港湾、発電所、通信施設、防衛施設などについて、今のうちに「電波を出さないドローン」を想定した防護設計へ更新することです。


そして、その更新は一度で終わりません。ドローン技術は、これからも変わり続けます。


守る側も、変わり続ける仕組みを持たなければなりません。



ここ、押さえておきたいところです。

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