水害とドローン—空から撮った先に、何ができるのか

地震や豪雨のニュースに接するたび、ドローンへの期待が高まります。道路が途切れ、人が近づけない場所を上空から確認する。孤立した集落へ物資を届ける。被災した地域を立体的に記録する。災害時に役立つ場面は、確かにあります。
2026年も水害への対応が続いています。国土交通省は、台風第25号、第26号と前線による大雨の被害状況を公表し、10月9日には、梅雨前線豪雨から台風第25号までの一連の災害について、道路や河川などの復旧に向けた災害査定の簡素化を発表しました。災害対応は、救助の後も長く続きます。国土交通省・大雨の被害状況、災害査定の効率化
その中で、ドローンは何を担えるのでしょうか。特に水害では、上空から映像を撮れるという特徴が、現場の判断と深く結びつきます。ただし、撮影できたことと、対応が進んだことは分けて考える必要があります。
水害では、同じ場所の状況が変わり続ける
地震でも余震や二次災害への警戒は欠かせませんが、水害では、浸水そのものが時間とともに変わります。
朝には通れた道路が昼には水没する。雨が弱まっても、上流から流れてきた水で川の水位が上がる。川から水があふれていなくても、市街地の排水が追いつかず、住宅地に水がたまる。撮影した瞬間には正しかった情報が、数時間後には現場の状況を表さなくなることがあります。
だから、水害で必要なのは「被災地の写真」だけではありません。どこを、いつ撮影し、前の観測から何が変わったのか。その情報がそろって初めて、対応を検討する材料になります。
例えば、浸水域の広がりを繰り返し確認できれば、孤立する可能性のある地域や、現地確認を急ぐ場所を絞り込めます。水が引く過程を追えば、排水作業や復旧調査の順番を考えやすくなります。
一方、道路が上空から見えていても、安全に通行できるとは限りません。水の下に段差や流失箇所が隠れている可能性があり、橋や路肩の状態も映像だけでは判断できません。ドローンは現地確認の必要性を減らしたり、確認する場所を絞ったりする道具として位置づけるべきでしょう。
すでに実績がある。課題は情報の使い方
水害へのドローン活用は、将来の構想だけではありません。
2019年の東日本台風では、国土地理院が千曲川の破堤箇所や浸水箇所をドローンで撮影し、関係機関に動画を共有しました。同時に、航空機の画像などから作成された浸水推定図は、排水ポンプ車の配置計画や被災調査に使われています。ここで注意したいのは、すべての成果がドローンだけで得られたわけではないことです。有人航空機、画像判読、標高データなどを組み合わせた対応でした。国土地理院・東日本台風への対応
この事例が示すのは、ドローンの価値が、他の情報とつながったときに大きくなるということです。
川の水位計は、その地点の水位を継続的に知らせます。固定カメラは同じ場所を見続けます。衛星や有人航空機は広い範囲を捉えます。その間を埋め、気になる場所に近づいて詳しく確認する役割を、ドローンが担えます。
問題は、撮った映像を誰が受け取るかです。
災害対策本部に動画を送っても、職員が長い映像を最初から見なければ場所が分からないようでは、負担を増やしてしまいます。地図上で撮影場所を確認できること。撮影時刻が分かること。変化した場所や未確認の場所を区別できること。画質や機体性能と同じくらい、こうした整理が重要になります。
災害は別の災害と影響しあう
2024年の能登では、地震からの復旧が進む地域を、9月の豪雨が襲いました。国土地理院の報告でも、河川の氾濫や土砂崩壊が、地震に伴う復旧・復興事業に影響したとされています。国土地理院・2024年の風水害への対応
このような複合災害では、過去の地図だけで現場を理解することが難しくなります。地震で地形や道路が変わり、応急復旧が進み、その上に豪雨による被害が重なります。
そこで意味を持つのが、継続した記録です。地震直後、応急復旧後、豪雨後の状態を比較できれば、新たに損傷した場所や、復旧が後戻りした場所を確認しやすくなります。
ドローンによる写真や三次元データを、一度撮って終わりにせず、地域の変化を残す資料として扱う。災害のたびにゼロから調べ直す負担を減らすためにも、この視点が必要です。
水が引いてからも、ドローンの仕事は続く
災害時のドローンというと、人命救助や物資輸送が注目されます。しかし、水害では、水が引いた後にも大量の調査が残ります。
堤防や道路のどこが壊れたのか。土砂や流木がどこにたまったのか。工事車両を入れられる場所はあるのか。復旧工事に必要な資料をどうそろえるのか。被災した自治体や施設管理者は、これらを並行して進めなければなりません。
この段階では、写真を地図に重ねたり、地形を三次元化したりすることが役立ちます。現地に行けない担当者にも状態を伝えられ、追加調査の場所や工事の進め方を相談しやすくなるからです。
ただし、見た目が精細な三次元モデルを、そのまま測量成果として扱うことはできません。復旧設計や数量計算に使うなら、その用途に必要な精度を確認しなければなりません。
今後の事業を考えるうえでは、ここが大きなポイントになります。空撮の依頼を受けるだけでなく、調査、資料整理、復旧工事の記録まで引き受ける。顧客が必要としているのは、機体を飛ばす作業だけではなく、次の仕事に使える成果です。
水害とドローン—飛べない時間を、どう埋めるか
水害とドローンの相性を語るとき、避けて通れないのが天候です。飛行できる雨量や風速は機体ごとに異なり、機体が飛べても、操縦者が安全に現場へ到着できるとは限りません。離着陸場所が浸水し、電源や通信が使えないことも想定する必要があります。
また、被災地の空は、救助ヘリコプターなどが活動する場所でもあります。国土交通省は、緊急用務空域ではドローンの飛行を原則禁止しており、通常の包括許可があっても飛行できないと説明しています。国土交通省・緊急用務空域の説明
災害に備えるなら、ドローンが使えない時間の情報収集も含めて計画する必要があります。固定カメラ、水位計、衛星、現地からの報告をどう使い、飛行可能になったらどこを優先して確認するのか。機体の配備と一緒に、その順番を決めておくことが実効性につながります。
災害対応は、継続する市場になるのか
社会に必要な仕事であることと、事業として続けられることは同じではありません。
災害への出動だけを収益源にすると、発生時期も仕事量も読めません。それでも、機体の整備、操縦者の訓練、通信環境の準備、待機には費用がかかります。災害協定を結ぶだけでは、その体制を維持する資金まで確保できるとは限りません。
現実的な方向は、平時の業務と災害対応をつなぐことではないでしょうか。
普段から河川や堤防、道路、排水施設の状態を記録する。同じ地域を継続して扱い、施設管理者とデータを共有する。その延長で、大雨の後には比較調査を行い、災害時には優先して対応する。待機や訓練にも対価を設け、出動後の調査や資料作成まで契約に含める。
この形なら、地域を知る運用者と、比較に使える記録を日常の仕事を通じて育てられます。ただし、予算や発注方法、成果物の扱いまで変える必要があるため、一度の実証で完成するものではありません。
災害のたびにドローンが話題になり、映像が広く流れても、それだけでは地域の備えは積み上がりません。次の大雨までに、誰が機体を維持し、誰が飛行を判断し、誰が情報を受け取るのか。そこまで決まっているかが問われます。
水害におけるドローンの成果は、飛行回数や映像の迫力だけでは測れません。危険な現地確認をどれだけ減らせたか。必要な情報を、判断する人へどれだけ早く届けられたか。復旧調査や工事の準備をどれだけ進められたか。
その成果を平時の業務にも生かし、次の災害に備える。水害とドローンの関係を考えるなら、空撮の先にある、この継続した仕事まで見ておきたいところです。




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